夢遊病で自殺志願者な殺人者の少女の話。

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雨が降っていることに気付いたのは、男が動かなくなってすぐのことだった。パラパラと降り注ぐ雨粒が私の意識を浮上させ夢にも似た世界から現実へと繋ぎ止める。私の頭上から容赦なく降り注ぐ雨は、随分と前から降っていたようで薄暗い路地の地面は既に黒ずんでおり、私が身に纏っている服も靴もぐっしょりと濡れていた。 雨が降っていることに気付いてしまったからか、雨音がやけに耳につく。固定した視線の先では雨に混じって夜の闇には不似合いな赤が、雨水に薄まってはどろりと流れている。赤色を流出しているのは私の足元で俯せに倒れ、微動だにもしない男で。その男の喉は鋭利な刃物で切り裂かれたように一線を描き、止めどなく赤黒い血液が溢れ出ていた。 私は生の消えたそれに触れようとして、右手に握り締められたものに気付く。それは私がふたつの理由で所持していた果物ナイフで、何故か刃先が男と同じ赤色に染まっていた。否ーーよくよく見てみるとナイフを握り締めている私の右手も赤く染まり、そして、着ているワンピースにも赤い飛沫が飛び散っている。 何故。問い掛けて思い出す。 あぁ、この男を殺したのは私だった。家庭に不満がある訳でないが、私は夜の町を徘徊するのが好きだった。家族が寝静まった頃、こっそりと家を出ては静寂が保たれた夜の闇と同化する。それが物心ついた時からの日課となっていた。 それは一種の夢遊病のようだと思う。何故なら私の記憶は家族が寝静まったのを確認した後に必ず途切れてしまうからだ。気が付いたら外にいる。自分の意思で出たのかそれとも違うのかそれさえも分からないまま私は、夜の町に足を踏み出しては行く宛もなく徘徊する。それから暫くして、モノクロの世界から現実へと引き戻され、何事もなく無事に帰路へとつくーー筈だった。
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