夢遊病で自殺志願者な殺人者の少女の話。

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嘆息が自然と漏れる。 私が『私』として意識を取り戻す前、夢によく似たモノクロの世界で私は目の前で俯せに倒れている男に襲われた。ふらふらと散歩していた私の背後からいきなり襲い掛かってきた彼は有無を言わさない力で私を路地に引きずり込んだ。 抵抗らしい抵抗はしなかったと思う。その時の私には感情というものが抜け落ちていたと思うし、危機感というものを覚える程の認識能力も無かったと思う。とにかく曖昧だった。 だから、一体どのタイミングで何を思ってポケットに仕舞っていたナイフを彼の喉仏目掛けて振り払ったのかを全くもって覚えていない。不思議と罪悪感は無かった。それ以前に私に感情というものが有っただろうか。 これまでの人生を振り返ってみたところ、私は他の人とはどこか違うらしい。『らしい』と曖昧な表現になるのは、私が自分自身のことをよく分かっていないことと、他人の気持ちが理解できない。そのふたつが関係しているんだと思う。だからこそ私は夢と現実とモノクロの世界の三つを行き来しているのだろう。 ならば、これはどっちの世界なのだろう。 「くかかか、傑作だな」 ふいに背後から笑い声が聞こえた。私は、特に慌てることなく振り返る。そこには男の子がいた。灰色の短い髪。夜の闇と同化した上下共に黒い服。顔立ちからして中学生くらいで私の肩までしかない低い背。 こんなところで何してるんだろう。警察のパトロールに見つかれば夜間外出で補導の対象となるのだけれど。そこまで考えて、正当防衛とはいえ人を殺してしまった私がいえることじゃないと思い直した。
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