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少年はクスクスと笑みで肩を震わせながら、私の脇を通り抜ける。それから、しゃがみこんで死体の検証を始めた。探偵気取りなのかなぁとか思いながら私はそれを眺める。
殺人現場を見られたというのに私の心は微塵たりとも動揺してくれなかった。どこまでも平穏を保ったまま僅かな痛みすら走らない。
死体と私と私の右手にある凶器を見比べ、少年は立ち上がる。そういえばこの子は死体を見ても、それを作り上げた私を見ても、決め手となった凶器を見ても笑っているだけだなぁ。普通の人なら間違いなく逃げることだろう。もしかしたら、即効で通報されるかもしれない。あぁ、それ以前にここまで無防備に近付いてこないか。
「えーと、一応聞くけどさ、おねーさんはいつも人を殺している人?」
少年は笑顔のまま訊ねる。
私は緩く首を横に振った。
「違うよ」
「へぇー、初めてなんだ?随分と落ち着いてるみたいだけど、もしかしてショックで壊れちったとか?」
「それも違うよ。壊れているのは間違いないかもだけど」
「成る程ね」
「君、何してるの?中学生が夜間に外出したらまずいよ。警察に見つかったら学校に連絡はいるし」
「その前にあんたが捕まるんじゃねぇの?っつーか、あんたもそれは同じだろ。見たところ高校生くらいだろ?」
私は二十歳だ。若く見られたことに対して喜ぶべきなのだろうか。それとも幼く見られたことに対し怒るべきなのだろうか。よく分からない。
私の心は微動だにもしない。焦りもしなければ罪悪感も湧かない。それどころか死体の前で雑談を交わす程の余裕がある。流石の私も異常性を感じたが、それに抗うことはしなかった。
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