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少年は『んー』と何かを考えるような素振りを見せながら、ズボンのポケットを探る。ついに通報されるのだろうか。今頃寝ている家族達は私が逮捕されたと知ったらどんな顔をするのだろう。絶望するか。いつかやると思っていたと呆れられるか。そのどちらかだろう。しかし、私の考えを否定するように少年が取り出したのは折り畳み式のナイフだった。
「おねーさんに聞きたいのはふたつ」
ぱちんと刃先を向けられる。
「ひとつはなんでナイフを所持しているか」
少年がナイフを構えたまま距離を縮めてくる。
「もうひとつは『殺人者のみを殺害する殺人鬼』の噂を知っているか、だ。さぁ、どれから答える?」
少年は可愛らしく首を傾ける。
後者の質問の意図はよく分からないが、前者の質問には簡単に答えられる。私が果物ナイフを所持していたふたつの理由。それは護身用と自殺する為のモノだった。自分の身を守りたいのか破滅させたいのか、よく分からない。というより矛盾している。
あぁ、そうなると私の徘徊癖はそこに起因しているのかもしれない。私は『自分』を知らない。それと同じくらい他人の気持ちが分からない。それに加え私には三つの世界がある。異常だ。思考の余地なくはっきりと答えられるーー私は精神に異常をきたしている。
本能的な部分では既に気が付いていたのだろう。そうじゃなきゃ、こんな訳の分からない私が自殺しようなんて自主的に思わない筈だ。
多分、きっと、私は、探していたのだ。
ーーきっかけを。死に場所を。
死期を悟った猫が姿を眩ますのと同じように。
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