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分かってしまえば簡単だった。別に今の今まで自分の行動を気にしたことはなかったが、知らず知らずのうちに胸に蓄積されていた重みみたいなのがスーッと取れていくのを感じた。
私は、そのことを少年に告げる。すると少年は、また、楽しそうに笑った。特徴のある笑い声が路地と雨の音に滲んで消えていく。しかし、少年の手にする刃先だけは方向性を見失わない。
「そうかいそうかい。なら、あんたはふたりの人間を殺したーーいや、まだひとりか。正確に言うなら、もうひとり殺そうとしている訳だ」
「ふたり?」
「この男とあんた自身を入れてのふたりだ」
「あぁ、成る程ね。私自身も殺しに入るんだ?」
「当たり前だろ?自殺ってのは、自分で自分を殺すって書くんだぜ?肉体的にも精神的にも、な。ううん?そうなると、あんたのその壊れちゃったような行動の根本的なところは精神的な自殺を果たした後だからなのかな?」
「精神的に自分を殺したつもりはないんだけど、君がそう思うんならそうなんだよ。それで?どうして君はそんなことを私に聞くの?なんで、ナイフを向けてるの?」
「くかかか、そんなの決まってんだろ?殺す為だ」
「……殺す」
楽しそうに物騒なことを宣言した少年の言葉の表面をなぞってみたが特に意味はない。ナイフを突きつけられ、殺害宣言をされたというのに私の心は未だに眠ったままだ。
いつ起きるのだろうと、思いながら、寝てるんじゃなくて死んでるんじゃないかなと、思い直す。少年と同じ単語を口にした筈なのにそれに重みや感情は籠っておらず、空っぽだった。空洞だった。空虚だった。まるで、私自身みたいだと笑えもしない。
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