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そう訊ねられ私は黙り込む。
怖じ気づいた訳じゃない。
確かに私は死にたかったのだろう。こんな風にきっかけを探してまで、こんな風に自称殺人鬼と名乗る少年と向かい合って、こんな風に人まで間違って殺しちゃって、それでも、まだ生きている自分に何の嫌気も憎悪も感じないまま無意識のうちに自分自身を許容出来てしまっている私は完璧に壊れているし異常だし狂ってる。
でも、それでも、それは、この少年に殺される理由にはならない。壊れてるから、異常だから、狂ってるから。そんな理由でーーたった、それだけのことで他人が私のことを裁いていい権利にはならない。
それは、少年の背後で横たわる死体も同じことだ。反省も後悔もしていないけど、ちっとも悪いことをしたという気分にもならないけど、だけど、それでも、きっと、彼が私に殺されていい理由なんてどこにもなかった筈だ。
「ダメ。君に私は殺させない」
「あん?」
「私が私を殺すの。私の異常さも私の世界も私の罪も全部、私だけのもので、誰にも渡さない」
落とした視線の先には握り締められた果物ナイフ。
私はそれを眺め、笑みを浮かべる。
長かった。
私が私を殺す為の理由を見つけるまで。
私が私を殺す為の場所を見つけるまで。
私と同じ、壊れた人間に出逢うまで。
両手でナイフを構える。
狙うは喉。
少年を見遣ると彼は興味を無くしたように『ちぇー』っと項垂れていた。まるで玩具を取り上げられた子供のようで、こんな状況でも少しだけ微笑ましさを感じたような気がした。
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