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「ねぇ、最期に君の名前を教えてよ。君の質問に答えてあげたんだから、最後くらい私が質問してもいいでしょ?」
「なんだよ、それ。今から死ぬんだから別にいいだろ?」
「今から死ぬ相手に名前を教えるくらいいいでしょ?」
「ちぇっ。ま、いいぜ、特別サービス。おねーさん実は俺の好みだったから教えてやんよ、ただし、おねーさんも名前、ちゃーんと教えろよ?」
「分かったよ」
「俺の名前は灯火(ともしび)ひかる」
「そう。ひかるくんね、私は春野(はるの)ひなた」
「なんっつーか、あれだな、お互い明るい名前なのに生き方は互いに血生臭いのな。名前負けっつーか終わってるっつーか」
「そうだね、うん。それじゃひかるくん」
私はナイフの柄を両手で握り締め直す。
いつの間にか雨は止んでいた。
それでも見上げた空には星ひとつ無かった。
ひかるくんは微動だにしない。
見届けてくれるようだ。
私は笑って見せる。
もしかしたら、生まれて初めて笑ったかもしれない。
「君は可哀想だね」
そんな風にしか生きられないーー君は。
私の言葉に彼は何か反論しようと口を開いたが、もう、遅かった。
それじゃ、サヨナラ。また、来世で。
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