ままにならぬが浮世の常

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矢野さんは私にはとても大人の男の人に見えた。 事実、私より10歳ほど年上だ。 守られたい、大事にされたい。 それは余りにも子供じみた衝動。 この人に守られるような存在になれたら子供扱いからでも構わない。 そう思ってたのに。 切なくなって、彼を見つめ返す目にうっかり熱が隠ってしまったのかもしれない。 不思議そうに首を傾げながらも微笑んで「どうした?」と伺いながら、私の頭を撫でようとテーブル越しに手が伸ばされた、まさにその時。 「あ、悪い。灰皿ある?」 そんなセリフと同時に、私の右側からぬっと手が伸びてきて眼前を通過し、左側の隅にあった灰皿を手に取った。 当然、私の身体は自然と後ろに傾いて、正面から伸ばされていた矢野さんの手は遠ざかることとなる。 ――― ちっ 内心舌打ちながら、にこ、と微笑んで右隣を見る。 「ごめんなさい、気が利かなくて」 すっかり自分×矢野さんだけの世界に浸ってて忘れてた。 隣に間宮がいることを。
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