prologue

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男のキスは、決して激しくはない。 優しく唇が開くのを促して舌先が触れると 円を描くように口腔内を撫で、絡め取る。 首筋に触れる男の手の人差し指に耳朶を弄ばれて 力の抜けた指先から するりとネクタイが離れて落ちた。 鉄の扉の向こうで 複数の人の声、ざわめきが聞こえる。 けれど私はこのキスに引っ張られて 少し別世界にいる感覚だった。 愛してもない相手に こんな愛情豊かに思わせるキスができるなんて。 コイツってほんとに信用ならない。 なんて、お互い様だけど。
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