寒椿が散る頃に

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記憶の中の彼女よりも幾分か若く見えたが、それは妖ならばあり得ない話ではない。 ただ、驚愕があった。 『な、何故、ここに…?』 驚くのも無理は無い…なにせ、探しても探しても見付からなかった彼女が、我が家の庭先に居るのだから。 『ずっと、貴方の…誠さんのお側におりましたよ。』 救われたあの時、名乗った覚えは無かったが、この家に来ている時点で知っていてもおかしくはない。 『側に? それはどういう……いや、まずは名を…貴女の名を……教えてくれないか?』 『…。 椿(ツバキ)…と申します。』 『そうか。 椿さん…と呼んでも良いだろうか。』 『ええ。』 『椿さん…助けてくれて、ありがとう。』 真っ直ぐに見詰めて謝意を述べる誠に、椿と名乗った彼女は少し悲しげに目線を下げる。 『…あれは……いえ、貴方が無事で、良かったです。』 椿の僅かに含んだ物言いに、若干の違和感を覚えた。 『僕もだ。 貴女が、無事で。』 が、彼…誠は想い人と再会できた喜びに、灰色の違和感も全て塗り替えられていく。 それから誠は『私をお側に』という彼女の願いを聞く。 急な話ではあったが、誠はその願いに疑問を持たなかった。 多くの妖は、未だ人間に虐げられ、辛い思いをしている。 だからこそ、誠は今まで人間と妖の共存を目指した政治を行ってきた訳であり、そんな彼を椿が頼ってくるのも当然と言えた。 つまり、誠がその願いを受け入れたのは世が世であったからであり、椿に恩を返す機会であったからであり、何より誠は想いを持っていたからである。
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