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あの頃の自分は…こんなに利己的に彼女を想ったろうか。
いや、違う。
ただ若さ故の愛に溺れ、この結末に気付かなかったのだ。
あの頃、気付けていたのならば、答えはどうだったのだろうか───
誠は、募りに募った罪悪感故か、思い起こす過去の自分に背中を押されたのか。
兎に角、思わず立ち上がってしまった。
「…? どうされましたか?」
「あ…ッ? いや…」
不思議そうに小首を傾げて見上げる椿に、誠は己の行動に半ば混乱しながらも、いそいそと腰を下ろす。
だが、その僅かな混乱は、誠の中で“何か”を切り離し、募った思いを吐き出させる事となる。
「…。 幸せ、か?」
ついに。
「こんな、儂と居て…お前は、幸せなのか?」
ついに、彼女に尋ねてしまった。
段々と落ち着く思考の中で、誠は絶望とも、安堵とも、何とも言えない複雑な心境に晒される。
しかし、これで良かったのだ。
そう、誠は思い込む事にし、“悲しげな表情を見せる”椿から目を逸らした。
視界の端に移る硝子の向こう…庭に咲いた赤い寒椿が冬風に揺れる。
はらはらと降る雪の白を背景に、赤みを持ったそれは幻想的な美しさを醸し出していた。
段々と、誠の中に覚悟にも似た思いが充ち満ちていく。
「…儂は、お前を、自由にしてやりたい。 …儂は───」
「待って。 …待ってください。」
誠の言を止めたそれは、今まで一度も聞いた事が無い様な、悲痛な声だった。
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