寒椿が散る頃に

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誠はその瞬間、いつになく赤みの増した小さな手が愛おしく思えた。 握り返そうと力を込めたが、しかし、するりとその手は離れていく。 「…事実を知って、貴方はどうですか? 私とは、もう共に居たいと思えませんか…?」 その問いに、誠の心が否と叫ぶのを感じた。 確かにきっかけは、初恋は椿の母であったのかもしれない…だが、この数十年の想いは、思い出は、いつも目の前の美しい彼女であったのだから。 「もし、貴方がもう…私を必要としてくださらないのでしたら……私は……「ダメだ!」 俯きかけた椿の言葉を遮る叫びは部屋いっぱいに広がり、驚いた様に見上げる彼女を誠は強く抱き締めた。 「済まなかった…椿。」 「誠、さん…?」 「儂は、二度と言わん…二度と離れないと誓う…! だから“一緒になってくれ、椿”!!」 プロポーズと、同じ言葉だった。 一緒になってくれ…不器用だが、真っ直ぐな誠の言葉…あの日と同じ熱い想いを確かに受け止め、椿はその腕の中で静かに目を閉じる。 安堵した様な表情から零れる涙は、この真冬の中でも二人の間を暖かくしていく。 「…いつまでも、一緒ですよ…誠さん。」 そう言った椿の言葉の意味を、誠が本当に理解出来たのか…それは分からないが、二人は確かに幸せを噛み締めていた。 寒空 誠…翌年の冬、静かに息を引き取る。 寒空 椿…同年の冬、誠の後を追う様に、そっと姿を消した。
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