奇跡の数

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私達のいる流し台は、内視鏡室の最奥の入り込んだ場所にあり、玉岡さんには、今までの会話は聞こえていなかったのだろう。 突拍子もない「ふぐ食べに行かないか」の一言に、彼女は驚きながらも。 「行く!行きますよー!」 一も二もなく即答だった。 ただ、それだけでは済まなかった。 彼女の後ろ、廊下には外来を終えて片付けを手伝いに来てくれた放射線科の看護婦が2人、居たのである。 「先生、みんな誘っていいんですよね?」 玉岡さんが、全く邪気の無い顔で言った。 「ああ、いいよ。みんなで行こうか」 谷先生の返事は、澱みないものではあったが。 玉岡さんが、集まった看護婦達の方へ振り向いて騒ぎ始めるのを見ながら。 「やったー!ねぇねぇ!谷先生がふぐ奢ってくれるって!」 「うそー!先生、ありがとうございますー!」 「時期的に放射線科の忘年会になりますねぇ」 表情が硬直したのを、間近にいた私にはありありと見て取れた。 「先生、今からでもふぐは撤回した方が良くないですか」 「いやいや、気にしなくていいよ」 「放射線科の看護婦、全員来ますよ、あれ」 「………」 全員来たら、私入れて8人になりますが。
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