奇跡の数

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なんだかんだでその日休みだった人にも話は伝わって、放射線科の看護婦全員が行く気満々、という事態となった。 谷先生は、相変らずなんでもないことのように笑ってはいたが。 「忙しいから、悪いけど日程は僕の都合に合わせてな。来れる人はおいで」 と、小さな抵抗らしきものはあったものの、そんなもの。 全員、意地でも合わせるに決まってる。 先生が美味しいといっていた店だ、絶対安物であるはずがない。 数日後、谷先生が定めた日程は、12月の中旬。 ちょうど良い時期だし、誰かが言ってたように放射線科の忘年会も兼ねてすることになった。 2台の検査台で、胃カメラ施行中。 検査の進行を見守りながら、部屋の隅のカウンターデスクにカルテを広げている。 僅かな機械音と、吸引の音だけの静かな部屋。 「生検鉗子」 「はい」 谷先生の声に応えて、内視鏡用の生検鉗子を滅菌袋から取り出して、患者さんを挟んだ反対側に近寄ると先生が持ちやすいよう先端を差し出した。 シュッ、シュッ、と、鉗子の先を内視鏡の中へ差し込んでいく、音。 「何人来るって?」 患者さんが起きてたら、ばっちり聞こえるっていうのに。 急に「ふぐ」改め忘年会の人数を聞いてきた。
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