奇跡の数

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表情は少しも変えずに、淡々と。 モニターの中で、先生が胃壁に鉗子を押し付けたのを合図に、私は持ち手を握ってひと息に内視鏡から鉗子を引き抜きながら。 「全員参加できるそうです」 「そう。遅れないようにね。それ、培養出しといて」 「はい」 まるで、カンファレンスの予定合わせのような口調だが。 ふぐの、打ち合わせである。 モニターの中で数度角度が変わってポイントを抑えると、後はさっさと内視鏡を患者さんから抜き始める。 この人の検査は、いつも余裕綽々とした表情で尚且的確でスピーディだ。 判断も早い。 その分、患者さんの負担も少ない。谷先生に検査をして欲しい、という患者さんが多いのも頷ける。 その、さらりとした横顔を見るのが、結構好きだ。 今日は、いつもより少し頬が緩んでるのを発見した。 ――― あ、嬉しいんだ。 お金はかかるけど、自分の誘いにみんなが乗ってくれるのが嬉しいんだ。 先生の人間性をそれほど知ってるわけじゃないけど、なんとなくそう思った。 昼休憩の時、また玉岡さんと一緒になって、そのことを話すと。 「多分ねー、そういうトコロがモテる要素なんじゃないかなー。谷先生」
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