奇跡の数

14/31
前へ
/33ページ
次へ
仕事を終えると、保育園まで子供を迎えに行く。 「マコト君ー!お母さん迎えに来たよー」 先生が言い終わる前に、部屋の隅から走ってきた息子が足元にまとわりついた。 「ただいま」 「おかえりー!」 結婚して1年程で授かった子供は、今年で5歳になる。 私がすぐに職場復帰しなければいけなかった為、3ヶ月の頃からずっと通っている。半分は保育園に育ててもらったようなものだ。 園からの帰り道、この近辺は坂道だらけで自転車も使えないし、たいした稼ぎもない私はバス代も勿体なくて、30分程の道のりをゆっくり歩いて帰る。 子供の手を引いて。 茜色の空の下、子供の顔もほんのりとオレンジ色に染まる。 冷たい木枯らしが駆け抜けるけれど、心は暖かい。 風に吹かれた枯葉が、足元を転がり私達を追い越した。 「見てー!お母さん、葉っぱが急いで帰ってる!」 「ほんとだねー」 子供の感性の豊かさを感じながら、季節ごとの空を愛でるこの時間は、何にも代え難い。 「マコト、今度ね、お母さん夜にお出かけしないといけないから、その日はばーばの家でお泊まりしてね」 「うん、わかった」 余りに素直な息子に、ちょっとだけ罪悪感。 ごめん、その日お母さん「ふぐ」なんだ。
/33ページ

最初のコメントを投稿しよう!

301人が本棚に入れています
本棚に追加