奇跡の数

17/31
299人が本棚に入れています
本棚に追加
/33ページ
先生が、盃を呷る。 意味不明だがとりあえずイマイチらしいので、ご機嫌取りにお酌をしようと徳利を掲げた。 「言われたこともできないし、わからなければ聞けばいいのにじっとしたままで、誰でもできるような掃除だけしとけばいいと思ってただろう」 差し出された空の盃に、徳利を傾けながら。 あ、仕事の話だったか、と肩を竦めて「すみません」と唇を尖らせた。 だって、雑用すればいいって外来の師長さんに言われて行ったんだもの。 第一、専門用語も何もわからない、医療を勉強したこともない私にいきなり検査室の仕事なんて。 何を聞けばいいかもわからないのに、掃除以外に何が出来る。 無茶を言うなって話だ。 「でも、やっと君もできるようになった。今なら、内視鏡の仕事なら安心して任せられる」 「……え…と。ありがとうございます」 急に褒められて面食らう。 先生の顔を見ると、私の方は見ていなくて、いつもと同じ横向きの顔。 の、リラックスバージョン。 「今の君だったら、看護婦居なくても君がいれば何も問題無い」 「いえ、そんなわけにはいかないですよ、注射できないですし…」 「注射は僕もできるから看護婦じゃなくてもいい。でも検査のサポートは君が一番だ」
/33ページ

最初のコメントを投稿しよう!