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徳利を、持っていられなくなってテーブルに置く。
ことん、と木の表面を徳利の底が叩く音。
「……反則、です」
ずず…と鼻をすすって、両手で鼻と口を覆った。
正直、内視鏡室に配属されたばかりの時は、辛くて仕方なかった。
専門用語もさっぱりで全く意味がわからない、内線を取っても相手の言う意味がよくわからなくてうまく取次もできない。
谷先生だけじゃない、検査に出入りする医師全員に役立たずと言われてる気がして苦しかった。
それがやっと、認めてもらえたのだ。
じん、と目頭が熱くなり、何かがこぼれそうになるのを必死で止める。
「今は、な。…最初はイマイチだったけどな」
「何度も言わなくていいです、それ。先生、結構人のこと見てるんですね」
どっちかというと、患者さんのこと以外我関せず、というイメージしか持っていなかった。
こんな風に話ができたのは、この間のいきなりのお誘いの時と今日が初めてだ。
涙の気配が消えるまで私は沈黙し、先生が美味しそうに日本酒を飲むのを見ていて。
私も少し飲みたくなった。
少しぬるくなったビールのグラスを空にする。
そこから、いつのまにか先生と2人ですっかり話し込んでしまい。
気づけば離婚の経緯まで愚痴っていた。
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