奇跡の数

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「笑えって?」 「何しても最後は笑ってろっていうんです。散々人を罵って怒鳴り散らした後でも、笑えって。これって人格無視してますよね」 「まったくだ」 「笑わないと余計長引くので笑いましたけどね!」 「なんで結婚したの?」 「は?」 「いや、しかも結構長く。もっと早く別れればよかったのに」 空になったグラスに、またビールが注がれる。 私はアルコールが回って思考の回らない、役立たずの頭をくらりと揺らす。 「それは」 「うん」 「………初めて好きになった人だったので。見捨てるのも、なかなか」 酒って怖い。 普段なら絶対しない明け透けなことも言えてしまう。 「また特殊なのに掴まったなー」 「特殊ですか」 「うん、心配しなくても世の中もっと普通の男たくさんいるから」 「もぉ――、今、そういう泣かせること言わないでくださいよ」 「例えば僕とか」 「愛人作る人とか無理です」 ……ほんと怖い。 いつもなら絶対言えない、って頭の片隅で理性の欠片が呆れてる。 「あー…それを言われると僕も耳が痛い」 先生がふざけた仕草で自分の耳を塞いだ。
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