奇跡の数

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「は?ふぐですか」 「そう」 なぜ、今急にふぐの話題なのか。 首を傾げたが、後ろは振り向かずに洗浄の続きをしながら正直に答えた。 「食べたことないですね」 「ははっ、そうか」 軽く鼻で笑われた。 世の中みんなが裕福だと思うなよ、と内心で拗ねていると。 「美味いふぐ出すとこあるから、連れてってやろうか」 今まで、前を向いたままだったのが、驚いてぐるん、と後ろを振り向いてしまった。 すると、てっきり先生はデスクに向き合っていてこちらには背中が見えていると思っていたのに。 回転椅子をぎしぎしと軋ませながら、先生は私の方を向いていた。 検査以外のことで、正面向き合って話すことなど今までなかったので少し面食らう。 「えっと……ふぐはとても食べたいですねぇ」 誘われたからといって、手放しで喜んでついて行っていいものかどうか、それとも私が考え過ぎなのか。 対処に困って曖昧な返事をすると、先生はにっこり笑ってやっぱりよくわからないことを言った。 「君、離婚しただろ、そのお祝い」 「はぁ?離婚でお祝いなんて聞いたことないですけど」 確かに先月、私は高校卒業してすぐにやらかした結婚に終止符をうったばかりだった。
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