Polaris~キミニデアエタキセキ~

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Polaris~キミニデアエタキセキ~

子供の時から父と祖父は折り合いが悪く、僕が祖父の家を訪れたのは本当に一度きり…10歳になる頃の夏が最初で最後だったのではないかと記憶している。そこは海沿いにある港町で、都会に住む僕からすれば沖から吹いてくる潮風が新鮮かつ心地よく、まるで小説の世界の中にでも迷い込んでしまったような感覚に陥ったのは今でも鮮明に覚えている。 しかし、僕が単に家族と祖父の家に訪れて潮風に当たったことだけが、その記憶を僕の脳裏に縫いとめているという訳ではないだろう。その港町を思い出の地にまで昇華させた要因は、僕しか知らないもう一つの理由がある。 子供の時ですら感じていた、父と祖父との間に漂う剣呑な雰囲気に嫌気の差した僕は、ろくに地理も知らないくせに柄でもなく散歩してくるなどと言って外出したのだった。祖父の家は小高い丘の上に建つ一軒家のため、見誤ることはないだろうと子供心ながらに確信があったからこそできた無茶な冒険であろう。 丘を降り、道なりに歩いた先に現れた名もない公園に僕は立ち寄った。錆びたブランコや塗装の剥げたシーソーが、えも言われぬ空虚さを僕の心の中に呼び込んだ。 どうしてお父さんは、お爺ちゃんと仲が悪いんだろう。 そんな答えなど出るはずもない答えを頭の中で反芻しつつ、僕は何の気なしに上を見上げた。 すると、所々錆びに浸食された滑り台の上。そこに一人の少女がいた。僕と年は同じくらいだろうか、肩くらいまでの長さの髪や、キャミソール風のワンピースから除く白磁の肌は色素が薄く、僕は子供ながらに「儚い」という形容詞を理解したのであった。しかし、僕が呆気にとられたのはその日本人離れした容姿だけではない。問題はそこ以外にもあったのだ。 まだ白昼の最中だというのに、その少女は手に持った大きな星座の図鑑を広げ、僕が公園に入ってきたことも気付いていない程に集中した表情で青く晴れ渡った空を眺めていたのだった。まるで最初からそうするためだけに、そこに存在していたかのように。僕は正直この少女を見たとき、得体の知れない物や人を拒絶する子供らしく『変な奴』と思った。これは関わりを持たない内にさっさと撤収した方が良い。そう思った僕は踵を返し公園を出ようとしたのだが、それがまずかった。力んで踏み出した一歩は公園の砂利を鳴らしてしまい、滑り台の上の少女がこちらを振り向いてしまったのであった。
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