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沈黙が二人の間を支配する。その色素の薄い瞳にまじまじと見据えられると、僕は身動きが取れなかった。まるで宇宙人でも見るかのように、その少女は僕のことを見てくる。すると次の瞬間、滑り台からするすると滑り降りてきた彼女は駆け足で僕の前に来ると、満面の笑みで迎えてきたのであった。
「こんにちは!あなた誰?」
「く、熊田北斗」
反射的に名乗ってしまう僕。ほくとかー、なんて反芻する少女の姿を見て、僕はほんの少しだけ後悔を覚えたのであった。
「私、瀧沙織。この町に住んでるんだ。夢は宇宙飛行士になって、もっと近くで星を見ること!よろしくね!」
「ふ、ふーん。よろしく」
初対面の人にいきなり夢を語られるという珍事は当時の僕は経験したことが無かったため、面食らった僕は曖昧な返事しかできなかった。
「と、ところで。なんで昼なのにそんな星座の図鑑なんか開いてるの?星なんか見えないじゃん」
「んー…この地球はお昼でもさ、星は燃え尽きちゃうまで休むことなく光ってるんだよ。だからこうしてたら、いつか星が見えるかなーって」
何の気なしに放った疑問は、予想を上回る奇妙な回答で返された。なんだ、やはりただの不思議ちゃんだったか。僕はそう信じて疑わなかった。
「…目、悪くなるよ」
「そんなことより、ほくとはどこから来たの?遊びに来たの?いつ帰っちゃうの?」
「そ、そんな一遍に聞かれても困るよ!大体、なんでお前なんかにそれ教えないといけないんだよ」
子供ならではの、無遠慮で棘のある切り返し。しまったと思い、泣かせてしまったらどうしようなどと焦ったが、その沙織と名乗った少女は屈託のない笑顔で笑いかけてきた。
「そんなの、ほくとと友達になりたいからだよ」
「なっ…!?」
顔に血が上り、心臓が早鐘を打つ。ウブだった僕はいてもたってもいられなくなり、沙織に背を向けた。
「ほくと?」
「…僕、たぶん明日には帰っちゃう」
「えぇ~…もうちょっといてよ、私歳の近い友達いないから寂しいの」
「だけど!」
僕は背を向けたまま、沙織の言葉を遮った。
「…また、来るから。お父さんとお爺ちゃんは仲悪いけど、いつかまた来るから」
「ほんとに?」
「なんなら…する?指切り」
「うんっ」
僕が振り向き様に出した小指に、沙織は素直に小指を絡めてきた。公園に、指切りに恒例の歌が響いた。
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