【第29話】決定打

30/38
前へ
/38ページ
次へ
  「自分でも、どうしてこんなことしたのか、上手く説明できないな……。羽村さんが言った通り、今日の僕は変だね」 「……」 独り言みたいな神谷さんの言葉に、何の反応も出来なかった。 目を逸らしていた神谷さんが、私と目を合わせた瞬間。 その顔に浮かんでいた、笑みが、消えた。 「ただ……長瀬さんのことを考えている羽村さんがあまりに可愛くて、……その分、悔しくて、ね」 そこまで言うと、一瞬だけ目を伏せる。 「最後の悪あがき、ってやつかな。本当にごめん」 「いえ……」 首を振った私が正面から見つめた神谷さんの表情は、いつも通りの、柔らかさと微笑みが戻っていた。 張りつめていた空気が、緩む。 神谷さんには、周りを優しく包む力が備わっているのかもしれない、と思った。 .
/38ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1471人が本棚に入れています
本棚に追加