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「まあ……そうは言っても、また仕事で会うんだけどね。そのときは、どうぞよろしく」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
「じゃあね。気をつけて」
「はい。失礼します」
「さよなら」
さよなら。
その言葉の持つ意味は、聞かなくてもわかった。
わざとそういう言い方をした理由にも、気付いていた。
一度、まっすぐお互いを見た。
私にも神谷さんにも、口元には、小さな笑みが浮かんでいる。
私は頭を下げて、踵を返した。
振り返らない。
立ち止まらない。
こみ上げてくる気持ちを何と表現したらいいんだろう。
してもし切れない程の感謝と、それから、過去の憧れとの決別、とでも言えばいいだろうか。
神谷さんが押してくれた背中を、無駄には出来ない。
私の足は自然と、スピードを上げていた。
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