469人が本棚に入れています
本棚に追加
/42ページ
なのに俺は、見てしまった。
「……っ」
若い男とマンションの敷地に入っていく、夕美を。
日直の勤務を終え、帰り着いた我がマンション。
足元ばかりを見つめて歩いていた俺は、その簡素な佇まいを視界の隅に捉えて、ようやく少し離れたところを歩く二人に気がついた。
思わず足が止まる。
……え? なんなん今の。
すぐに中に入っていった二人の様子は一瞬しか見れなかった。
だけど俺があいつを見間違う筈は絶対になくて。
……え、修羅場……?
そんな考えが浮かんでしまった。
……や、まさか夕美がそんな。うん、あり得ん、あり得んやろ。
どうにか冷静に努め、そう自分に言い聞かせてみる。
それでもどくりどくりと脈打つ己の拍動に胸が、苦しい。
……落ち着け、ただの動悸や。脳ミソが心臓の動きを親切に教えてくれとるだけや。狼狽えんな俺。
そんな自分に驚きつつ、ひとまずよく考えようと大きく息を吸い込んだ、時だった。
「あれ? 山崎さん……ですよね? どうしたんですか?」
「ひっ……!?」
最初のコメントを投稿しよう!