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グイッと少々強引に差し出された黒い塊を、つい反射的に受け取ってしまう。
「へ? あ、ちょい……」
途端に暴れ始めたそいつに彼女は「めっ!」と顔を膨らせる。
彼女の猫と言うのは事実なのか、ビクッと体を揺らした黒猫は利口にも大人しく腕に収まった。
「ごめんなさい、時間がないの。夜また来ます!」
少々呆気にとられている間にも「お願いします」と念を押した彼女は、その長い髪を靡かせ走り出していて。
ずしりと確かな重量感の黒猫だけが、腕にちょこんと取り残されていた。
「……どないすんねん」
彼女が見えなくなった途端に再び暴れだした猫の首根っこを掴んで取り敢えず身の安全を確保するも、爪を出して「シャーッ!」と牙をむくその様子は明らかに俺を敵と見なしている。
俺の腕を引っ掻こうと体を捩るそいつは危険きわまりなく、さっきみせた大人しさが嘘のようだ。
猫かぶりめ。
今まで飼い猫の存在など聞いたことはなかったのだが(というかここはペット禁止)、もしかしたらその失った記憶に何かしらの変化があったのか。
しかしながら話を聞こうにも当の本人は学校だ。
……しゃーない、ちゅうても俺猫とか診たことあらへんのやけど大丈夫かいな。
医者として保護者代わりとして、気になることはあるけれど。
ひとまず今は託されたこの暴れん坊をどうにかせねばと、玄関のドアを閉めた。
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