夏祭りの夜

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浴衣を脱いだ俺は勿論パンいち。 それ、と指差すのは唯一俺が身に付けているそれである。 とあるネズミの王国に住む主人公のズボンがプリントされたそれ。後ろにはご丁寧に尻尾まで描かれているから流石だ。 無論、俺の趣味、ではない。 「だってせっかくもろたし」 それは数日前に迎えた俺の誕生日に夕美がくれたプレゼントの一つ。 例えウケ狙いの商品でもこれは履かねば関西人の名が廃る。 「せっかく色っぽかったのに脱いだら残念だー」 「こら、残念てなんやねん」 それでも楽しげに笑う夕美の頭を軽く小突き、狭い洗面所を出てリビングへ向かう、と。 「うわぁ……先生、意外と」 俺たちのものでない声が背中に届いた。 「へっ!? な、なんやッ」 「み、みこちゃん!?」 慌てて振り返ると、細く開いた玄関のドアから顔を覗かせていたのは四階に住む女子高生、天海(アマガイ)みこ。 記憶喪失という災難に見舞われた彼女に医師として頼られて以来、確かにこの一ヶ月ほどよくうちに出入りしていたのだが……。 俺、パンいち尻尾つき。 タイミングが悪すぎる。 ちゅか何で勝手に開けとんねんっ! まぁ鍵をかけ忘れた俺たちも悪いのだが。 「ごっ、ごめんなさいっ」 そんな彼女も俺たちの声にはっとしたのか、逃げるように去っていって。 後日、ちゃんと話を聞くと、どうやらチャイムは鳴らしていたらしい。 洗面所で水を出して話していた俺たちには運悪く聞こえなかったようだ。 うるさくて下げていたその音量を再び上げたのはいうまでもない。 「烝先生がいつまでも若いのは、夕美ちゃんのエキスのおかげよねぇ」 あの間抜けなパンツ姿も最早ネタ。 「みこちゃん! もう忘れてよ!」 なんて必死になるのは夕美一人。 「別にええけどね……事実やし」 「……烝さんっ!」 記憶がないという不安な状況下において、この子が少しでもうちで安らぎを得られるのなら。 パンいちくらい、許す。 ***end
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