黒猫事件

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「……朝っぱらからなんやねんなもー……」 浮遊感漂う一番良いところで強引に現(ウツツ)へと引き戻された俺は、思わず顔を歪めて愚痴を漏らす。 しかしながらバスルームにいる夕美に頼るわけにもいかない。 こんな時間にあれだけ切羽詰まった様子でチャイムを鳴らすということは、それなりの用があってのことだろう。 仕方なく寝返りを打った俺は、名残惜しさに一度枕にぎゅっと顔を押し付けたあと、開かない目をごしごしと擦りながらベッドから下りた。 「先生! 良かった、今日お休み?」 玄関を開けると、ふわりと柔らかそうな銀色の髪が目を奪う。 次に、紫の瞳。 四階に住む、天海みこだ。 彼女は恐らくアルビノ。 遺伝情報の欠損により起こる先天的なメラニンの欠乏症だ。 メラニンがほぼ存在しない場合、眼底の血液の色によって虹彩が淡いピンクや紫に見える。 この子はまさにその典型だろう。 慣れたとはいえ、その容姿は寝呆けた頭に鮮やかだ。 「みこちゃん? どないしたん、学校は?」 「あのね、急いでるの。先生この子、ジンっていうの。私の猫みたいなんです。この子の怪我、診てあげてください!」
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