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夜を迎え入れ、すっかり暗くなった空からはゆっくりと雪が舞い降りてくる。枯れ木には雪という、白い花が咲く。そんな中、アレクは必死にイリスの帽子を探していた。吐く息は白く、寒さは容赦ない。
「確か、この辺りのはず」
懸命に探すも、辺りは暗く帽子は見つからない。アレクはその場に崩れるように座り込んだ。それでも諦めきれずにいた。目から一筋の涙が零れた。
魔法は誰だって使えるーー
イリスの言葉が甦る。その時、確かにアレクの掌には光があったーー アレクは涙を拭い、手を合わせ目を瞑る。
「我が身に宿る魔の力よ、今その姿を現せ」
あの時の流れを今でも感じる。アレクは目を開けて確認する。掌には光が灯っていた。その光を頼りに帽子を探す。
「あったーー」
少し離れた場所に赤いリボンのかかった、黄色い帽子ーーイリスの帽子ーーがあった。アレクは帽子に駆け寄る。帽子を拾いあげ、目一杯抱き締めた。
アレクの背後から足跡が聞こえた。振り替えると、そこにはレーヴンがいた。
「父さん、これーー」
イリスの帽子を見せながら、レーヴンに目で訴える。レーヴンはアレクの頭を優しく撫でた。
「アレク、お客さんだよ。私は先に家に入ってるから、その帽子は直接返してあげなさい」
レーヴンが玄関の方へと踵を返すと、彼の背中から会いたくて仕方がなかった人が現れる。
「イリス!」
アレクは愛しい人の名前を呼び、彼女に抱き締めた。突然の出来事に、イリスは戸惑いを隠せない。
「夢じゃなかった」
アレクはイリスを抱き締める腕にさらに力を込めた。イリスも彼を抱き締め返す。
「会えてよかったーー」
二人の体温と鼓動が一つに融け合う。いつのまにか雪は止み、二人を祝福するかのように星は瞬く。二人は顔上げ、見つめ合う。
「もう離れたくない」
アレクの言葉をイリスは黙って聞いていた。
「どの世界の誰よりもイリスが好きなんだ。だから、一緒にいてくれる?」
イリスはアレクから目を離さずに静かに頷いた。
「私もーー」
雪は月明かりに照らされ、神秘的な輝きを魅せる。二人は静かに目を閉じ、口づけを交わした。優しい静寂が辺りを包む。そっと唇を離し、二人して照れたように笑う。
「イリス、メリークリスマス」
「メリークリスマス、アレク」
雪の舞うこの白い季節に、出会い、共に過ごせたこの奇跡に歓びと感謝を二人は噛み締めていた。
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