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異世界
扉の向こうには、文字通り“異世界”が広がっていた。アレクは目を輝かせ、辺りを見渡す。アレクの世界では考えられないような、髪や瞳の色の人が行き交う。石畳の、この大通りは市場のようで、店にはアレクの見たことのないものがいくつも並べてある。
「ここが異世界ーー」
イリスは微笑みを浮かべ、静かに頷く。何もかもが新鮮で、アレクの目には色鮮やかに映った。
「凄いーー」
アレクの口から、自然と感動が零れた。
そんな二人の前で、見覚えのある親子が立ち止まった。男の子はじっとイリスを見上げる。
「ママ、お姉ちゃん、またお人形になってるよ」
「リリィ、ギーラちゃんと喧嘩したの!?」
母親はイリスを見て、呆れた声を出す。アレクは首を傾げるしかなかった。
「リリィ?」
「この世界の『私』かな?」
イリスはアレクにそっと耳打ちをした。その直後、はっと息を飲み、アレクの肩を掴む。
「に、人形?」
自分を指差し恐る恐る訪ねるイリス。
「うん。人形」
アレクはきょとんとした様子で彼女を見守る。彼女は忙しなく、自分の身体を見回していた。
「それに知らないお兄ちゃんといる!」
「あら、本当‥‥ この辺じゃあ見ない子ね」
イリスはいきなりアレクの手を掴む。急な温もりに、アレクの胸は大きく脈打った。彼女はアレクの手を引っ張り走り出した。
「早く仲直りしなさいよ」
アレクが振り返ると、男の子は大きく手を振り、母親は心配そうにイリスを見つめていた。その姿を見てようやく思い出す。あの親子は近所のケーキ屋のトムとその母親ーー
人気のない森までたどり着くと、イリスは足を止めた。二人とも息を切らし、肩は上下に揺れている。
「いきなり、どうしたの?」
「貴方は駄目なの」
アレクはイリスの予想外の返事に目を丸くした。どういう意味なのか、さっぱりわからない。
「先を急ごう」
イリスは静かに北を指差す。
「この森を抜けた先に、ギーラはいる」
彼女はアレクを置いて、一人で歩き出した。
「待って! 」
急ぎ足のイリスの手を掴み、彼女を引き留めた。冷たい風は唸りを上げ、アレクとイリスをを隔てた。二人の視線は凍てついたまま、重たい時間が流れる。
「説明して。僕は駄目って? それにギーラって魔女が、どうしてそこにいるって判るのさ?」
イリスはアレクから目を逸らす。そして、アレクの手をゆっくりと解き、静かに頷いた。
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