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二人は北へと歩き出していた。太陽は姿を隠し、雲行きは怪しくなっていく。
「アレクは魔法って信じてる?」
アレクは静かに首を横に振る。それを確認したイリスは立ち止まり、近くの木にそっと手を触れた。目を瞑り、手に力を込める。すると、木は眩い光を放ち、見る見るうちに剣へと姿を変えていった。信じられない光景にアレクは言葉を失う。
「私の世界では、魔力で原子の結合を組み換えて違うものを創りだせるの」
イリスは剣を腰につけながら、言葉を発する。アレクは唖然とした表情を浮かべていた。自分の世界では考えられないことだった。
「貴方だって使えるのよ。魔力は誰だって持ってるもの」
「僕も?」
イリスは穏やかに、小さく頷いた。
「誰だって魔力の使い方を覚えれば、どの世界にいたって魔法は使える。ちなみに、この世界では自分の属性に応じた魔法が使えるらしいわ」
アレクは半信半疑で、自分の手を見る。この手で魔法を使うことができるなんて、考えてもみなかった。魔法なんてファンタジーの世界のものだと思っていた。
「やってみる?」
微笑みながら問いかけるイリスに、アレクはすっと顎を引く。
「見てて」
アレクにそう言うと、イリスは手を合わせ目を瞑る。
「我が身に宿る魔の力よ、今その姿を現せ」
唱え終えると、イリスはゆっくりと目を開けた。 合わせた手をゆっくりと開く。その中には、小さく揺らめく炎の姿があった。
「私の属性は火ってことねーー 次はアレクの番よ」
アレクは見よう見まねで、手を合わせる。そして、目を瞑る。
「魔力の流れを意識して」
イリスの言葉にアレクは首を傾げた。魔力の流れーー そもそも魔力がよく分からない。
「魔力はゆっくりと貴方の身体を流れてる。その流れを探すの」
意識を自分の身体に集中させる。今まで気づかなかった何かが、自分の身体に流れていた。
「我が身に宿る魔の力よ、今その姿を現せ」
呪文を唱えるとその流れが急になり、掌に集中した。目を開けて掌の中を確認する。そこには、小さく灯る光があった。
「光の属性だね」
それを見たイリスはアレクの肩に手を乗せ、そう言った。
「本当に、僕にも魔法が使えるなんてーー」
実感が湧かず、まるで夢の中にいるようだった。しかし、確かにアレクの掌には光があり、肩ではイリスの手の重みや温もりを感じていた。アレクは自分の胸の鼓動が速くなっていくのがわかった。
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