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「普通、扉には鍵がかかっているの。開けるためには当然、鍵が必要。鍵は“歪み”よ」
ギーラは平然と言葉を紡いでいく。
「例えばイリスの場合ーー 私が『私』、つまりレイラを殺した瞬間の記憶」
「でも、イリスはーー」
「殺される前の記憶、殺された後の記憶も残ってるわ。だから、『私』が私に殺されたという事実は知ってる」
ギーラはお茶を一口啜る。そして、鋭い視線でイリスを射抜く。
「私を追わないと約束するなら返すわ」
その言葉にイリスはテーブルに手を叩きつけ、立ち上がった。
「もう自分を殺すのはやめて!」
しかし、イリスの悲痛な声はギーラには届かない。
「どうして『自分』を殺す人を庇うの?」
「親友だからよ!」
ギーラは自嘲気味に笑いながら、ゆっくりと立ち上がった。
「『自分』に殺意を抱いた人間を親友と呼べるの?」
ギーラもイリスも互いから目を離さないでいる。
「『貴女』を殺すのは、私が許さない」
二人の声が重なった。そしてイリスは剣を抜き、その先をギーラに向けた。
「力づくでも止めてみせる」
イリスはギーラに飛掛かり、剣を降り下ろした。剣がぶつかる、甲高い音が響き渡る。イリスの剣とぶつかったもの、それは氷の槍だった。ギーラはその槍でイリスを振り払う。そして、体制を崩した彼女を目掛けて突進する。
「イリス!」
アレクの声でイリスは顔を上げ、ギーラの追撃をかわす。が、槍はイリスの頬を掠めていく。一筋の血が頬を伝う。
「諦めなさい」
ギーラは諭すように、静かに言い放つ。しかし、イリスは剣を振った。ギーラは彼女の剣を槍で受け止めた。
「火よ、我が剣に纏え!」
イリスがそう唱えると、剣は火を纏う。そして、ギーラの槍を溶かし始めた。それに気づいたギーラは槍から手を離し、イリスから距離を取る。床には真っ二つになった氷の槍が転がった。
「こっちの魔法、少しは使えるみたいね」
冷静なギーラにイリスは剣を構えている。
「でも、滅茶苦茶。慣れてないのね」
彼女は口角を吊り上げた。
「氷よ、二人の行く手を妨害せよ」
すると、イリスとアレクの足は凍てつき、二人の動きを封じた。
「対抗できないわよね」
イリスは悔しそうに唇を噛む。
「霰よ、我に敵対する者を切り刻め」
何処からともなく現れた霰がイリスを切り刻んでいく。
「イリス!」
アレクはイリスの身を案じることしか出来ないーー
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