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蹲り痛みに耐えるイリス。ギーラは感情のこもらない微笑みを浮かべたまま呟くように言う。
「結局、私は『貴女』を傷付けることしか出来ないみたいね」
彼女の瞳の奥は悲哀に滲む。ギーラが指を鳴らすと、霰は止み、足元の氷も溶けて消えていく。
アレクはイリスを庇うようにして、ギーラの前に立ち憚った。
「退けて。ただ記憶を消して、彼女を元の世界に戻すだけだから」
アレクは首を横に振る。
「これは『私達』の問題よ。彼女だってその方が幸せーー」
「彼女の幸せは彼女が決める」
真っ直ぐギーラを見据える。ギーラは手を大きく振り上げた。そして、アレクの頬に痛みが走る。
「貴方に何がわかるのーー」
研ぎ澄まされたナイフのような彼女の瞳は、他人だけでなく彼女自身さえにも突き刺してるようで、悲痛な叫びを上げていた。
「我に宿る氷の力よ、龍の化身となりて喰い散らせ」
氷は次第に龍を象っていき、最後に吼えた。龍が二人を視界に捕らえると、一直線に襲い掛かる。アレクはイリスに覆い被さり、目を瞑った。
しかし、いつまで経っても襲ってこない。恐る恐る顔をあげれば、そこにはよく知った背中があった。
「レーヴン・イストリアーー」
ギーラがその名前を呼ぶ。レーヴンは何も言わず、手から光の糸のようなものを出す。その糸はギーラに襲い掛かり、彼女を縛り上げた。
何で父さんがーー 自分の父親の登場にアレクの頭は真っ白になる。レーヴンはイリスの傷の具合を見ていた。
「軽い切り傷のようだし、このぐらいなら私でも‥‥」
そう言って手をかざすと、イリスは光に包まれていく。 光が消えていくと、怪我が嘘のように綺麗に無くなっていた。アレクは自分の目を疑う。イリスも不思議そうに自分の身体を見回していた。
「アレク」
イリスに呼ばれ、アレクははっとした。レーヴンは縛られたままのギーラと向こうで何か話している。
「なに?」
「あの、その‥‥ ありがとう」
アレクの頬にイリスの唇が触れる。アレクは自分の顔に熱が集中していくのがわかった。思わず彼女から顔を反らしてしまうーー
レーヴンは大きく溜め息をつきながら、こちらに戻ってくる。無言のまま首を横に振った。
「今日は遅くなりそうだ。アレクは先に帰ってなさい」
アレクの近くまで来て、彼の頭を撫でた。すると、アレクの世界は暗転し、心地好い微睡みが彼を迎える。
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