泡沫の夢

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泡沫の夢

 アレクはゆっくりと目を開けた。ぼやけた視界と頭で辺りを見回す。そこは見慣れた自分の部屋だった。窓の向こうでは、日は落ちかけ、夕暮れと夜の境界線が出来ている。  ぼんやりとした頭が次第にはっきりとしてくる。それと同時に先程までの記憶が甦ってきた。 「あれは夢?」 一人小さく呟くも、誰の返事もない。イリスの笑った顔、泣いた顔、怒った顔、それに照れた顔ーー 全てはっきりと覚えてる。でも、彼女は傍にいなくてーー  階段を降りてダイビングに向かう。そこにはパーティーの支度をする母親のリサと、その手伝いをする妹のスティラがいた。 「あ、お兄ちゃん」 「アレク、起きた?」 リサの問いかけにアレクは頷いた。日常は何も問題なく回っている。 「どこか体調でも悪いの? 今日一日中、部屋で寝ていたみたいだから」 「そんなことはないよ」 アレクの返事にリサは安堵の色を浮かべた。今日一日中、部屋で寝ていたみたいだからーー そのリサの言葉が、頭の中でぐるぐると回る。 「支度はもうほとんど終わってるんだけど、パパがまだ帰ってきてないのよね」 今日は遅くなりそうだーー レーヴンがそう言っていたのを思い出す。アレクはそれを頭から追い出すろうに首を振った。 「ねえ、見て見て」 スティラは強引にアレクをケーキの前に引っ張っていく。 「このクリスマスケーキ、可愛いでしょ! トム君のケーキ屋さんで私が見つけたの」 抜けてきた森、ギーラの赤い屋根の家、そして人形のイリスーー それらを象った砂糖菓子やチョコレートが乗っていて、雪に見立ててた粉砂糖までもかかっていた。アレクは驚きを隠せなかった。 「お兄ちゃん?」 「え? あ、うん。か、可愛いね」 アレクが共感すると満足したのか、スティラはまたリサの手伝いに戻っていった。  夢だった? 全て? 信じたくなかったーー しかし、現実は目の前に叩きつけられていた。何とかこの現実に抗えないものかと、頭を巡らせる。 「帽子ーー」 イリスが落ちてきた時、雪の上には杖と帽子が転がっていた。杖は確かに拾った。でも、帽子は?  森でもあの家でも、イリスは帽子を被ってなかったはずだ。もし、夢じゃなかったのならーー 「ちょっと外、見てくる」 サラとスティラの返事も待たず、アレクは外へと駆け出した。きっと帽子があると信じて。もう一度イリスに会えると信じてーー
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