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人形の導き
柔らかな日差しが昨晩の雪を優しく包み、それに応えるかのように雪は煌めく。そんな穏やかさとは対照的に、冷気はアレクの身体を容赦なく貫いていった。空を見上げれば、どこまでも澄んだ青が広がっている。早く終わらせて家の中へ戻ろう、そう思った彼は視線を戻し、雪かきを再開した。
「きゃあぁぁっーー」
女の子の悲鳴が響き渡り、静かな朝に木霊した。アレクが慌てて辺りを見渡してもその姿はなく、何一つ変化もなかった。
「気のせいだったのかな‥‥」
アレクの独り言に返事をするかのように、彼の目の前に空から音をたてて、“それ”は落ちてきた。アレクは恐る恐る近づいていく。赤いマフラーに青いワンピースを着たーー
「に、人形!?」
雪だるまのように白くて丸い頭、枝のように細い手足ーー 顔は雪に埋もれて見えなかったが、どう見ても人間には見えなかった。近くには“それ”が身につけていたであろう、帽子や杖が転がっている。
「あの、大丈夫ですか?」
返事はないだろうと思いつつ、話しかける。“それ”が人形だということ確認するためだった。
しかし、その期待を裏切るかのように、“それ”は雪から顔をーーあの細い手を使ってーー出したのだ。
「もう最悪‥‥」
“それ”は瞳を潤ませながら、一言、そう呟いた。“それ”の声は先程アレクが聞いた女の子の悲鳴とよく似ている。彼女の視線がアレクを捕らえた。すると、勢いよく起き上がり、唖然としていたアレクに詰め寄った。
「レーヴン‥‥ レーヴン・イストリアさんはどこですか!?」
「えっと、あの‥‥ 父なら単身赴任中で家にはいませんが?」
いきなり父の名前を出され、不信感は増していく。
「う、嘘‥‥ もう、どうすれば……」
彼女は頭を抱えてその場に座り込み、涙をポロポロと流した。彼女の涙に、アレクは狼狽えてしまう。
「父は今日のパーティーには帰ってくると言ってましたよ。それに僕にできることがあるなら手伝いますし、ねーー」
アレクはしゃがみ、彼女の頭を撫でた。すると、彼女は泣き止み、アレクの瞳を覗き込む。
「父?」
「あ、はい。僕はレーヴン・イストリアの息子、アレク・イストリアです」
彼女の瞳に輝きが戻り、アレクも胸を撫で下ろした。
「レーヴンの息子さん?」
アレクは静かに頷くと、彼女はいきなり立ち上がる。アレクも戸惑いながらも、彼女に釣られて立ち上がった。
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