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「――でも……」
どうやらドアから入ってきた人物が気になったらしく、涙でぐちゃぐちゃになった顔で振り返りにかかる。
「気にしなくていいから」
咄嗟に優子ちゃんが振り返るのを遮るように頭を抑え、自らの胸に顔を埋めさせる。
――涙に濡れたぐちゃぐちゃな優子ちゃんの顔を見せたくなくて……
驚きのあまり優子ちゃんの身体が少し引き気味になったのを感じたが、すぐにまた俺の胸に微かな重みを感じ取った。
瞬間、美月の方から微かな靴音が聞こえ我に返る。
慌てて視線を戻すと今にも泣きそうとも取れる顔で俺を見つめ、そして俺と目が合うと後退り、まるで逃げ出すかのように店を飛び出して行ってしまった。
「――美っ……」
出かかった言葉をギリギリのところで飲み込み、優子ちゃんを残し美月の後を追いにかかる自分を抑える。
本当なら今すぐにでも美月の後を追い、何でもないと言いたい。
――でも今はできない。
土砂降りの中、傘もささずに帰って行った美月の後ろ姿に胸が痛んだ。
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