焦りと不安

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それでも優子ちゃんは口を利こうとはせず俯いたままで、まるで人形のように俺が頭を拭く動きに合わせて身体が揺れるだけ。 心配になり、もう一度声を掛けようかとした矢先に、息が洩れるような弱々しい笑いが聞こえる。 「神崎さん力強すぎます。髪の毛がグチャグチャになっちゃったじゃないですか」 その声は弱々しいが含むような笑みが込められ、少し俺を安心させた。 でも次の瞬間、身体に強い衝撃を覚え、同時に冷たさが伝わってきた。 一瞬、何が起こったのか分からなかったが手に持っていたタオルが床に落ち、触れていたはずの優子ちゃんの頭の感覚が消え、すぐに抱きつかれているのだと理解する事ができた。 何故こんな状況に陥っているのか理解できず、俺の手は行き先を失い宙に浮いたまま、抱き返す事ができない。 寒さで震えているのか、それとも泣いているのか分らないが優子ちゃんの身体が小刻みに震えているのが伝わってくる。 「---優子ちゃん?」 恐る恐る小さな子供にでも話しかけるかのように優しい声で呼びかかけてみる。 「ごめんなさい。もう少し……もう少しだけ何も聞かないで、このままで居てください」 優子ちゃんは震える声で昔見たドラマのワンシーンのような台詞を口にすると、更に腕に力を込め抱きついてきた。 .
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