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「すみません。どーぞ」
二人のやり取りに、つい席を進めることも忘れていたことに気づき、慌てて席を勧める。
いつもなら迷わず自分の指定席のごとく座るはずのサユさんが躊躇いの色を見せ、隣に居る佐田さんに何か言いたげに目配せしだす。
――何か不味い事でも言った?
微妙な二人の反応に思わず自分の口にしたことを思い返してみるが、席を勧めただけで特に問題はない。
不思議に思い訊き返そうとした矢先、サユさんが先に口を開いた。
「えっと、さすがに今はカウンター席はきついかな?」
そう遠慮がちに言いながらサユさんは大きなお腹を強調させるかの様に撫でてみせる。
「あ……、すみません」
俺としたことが……
店に入ってきたときにサユさんのお腹に目がいっていたにも関わらず妊婦には不向きな席を勧めてしまった。
「いいのよ。もう臨月だって実家に帰って来たくせに神崎くんの顔が見たくなって無理言って店に連れて来てもらった私が悪いの」
謝る俺にサユさんが、すかさずフォローしてくれた。
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