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「じゃあ、奥の席に……」
カウンターから出て店の奥のソファー席へと案内する。
足元に気を付けるように言われながら佐田さんに手を引かれたサユさんがゆっくりと歩いてくる姿に、やっぱり目がいってしまう。
幸せそうなサユさん。
一年前のサユさんからは想像もできないくらい穏やかな笑みを漏らしている。
「今、温かい飲み物持ってきますね」
不意にサユさんと目が合ってしまい、思わず誤魔化すようにカウンターの奥へと足早に、その場を離れる。
胸がチリチリしていた。
心に余裕がないせいか幸せな二人を見ていると嬉しいと思う反面、羨ましいと思ってしまう。
「駄目だな……」
他人を思い遣る気持ちが最近、無さ過ぎる自分に溜息が零れる。
重くなってゆく気持ちを切り替えるように深く息を吐くと俺はホットウーロン茶を手に二人の元へと戻った。
それから三人で軽い昔話と、二人の近況。そして、これから生まれて来る子供な話をした。
時折、愛おしそうにお腹をさすり話しかけるサユさんの姿に”母”を感じさせられ、もうあの頃のサユさんはドコにも居ないんだな、って沁々思ってしまった。
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