ジレンマ

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平日のせいか客足も鈍く、それを良いことに俺は暫くサユさんたちとの会話を楽しんだ。 初めて会ったにも関わらず佐田さんの人当たりがやわらかいせいか話しやすく、ついつい会話が弾んでしまったのだ。 でも時間も時間になり、店のドアが開き馴染みの客が店へと入ってきた。 「いらっしゃいませ」 ドアが開く音に俺は素早く反応して客を迎え入れる。 「ごめんね、もう帰るから」 入ってきた客を席へと案内しているとサユさんたちが足早に俺の横をすり抜けて行く。 「あ、サユさん……」 反射的に俺が呼び止めるとサユさんが足を止め、ゆっくりと振り返り俺を見た。 何かを察知してくれたのか佐田さんは俺に軽く頭を下げると「車を回してくるから」とサユさんを残し先に店を出て行ってくれた。 俺は佐田さんが店を出て行ったのを確認すると、サユさんの傍へと足を進めた。 「健吾、元気?」 俺が話題を振る前にサユさんがポツリと溢した。 その表情はさっきまでとは違い、少し沈んでいるようにも見えた。 .
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