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「佐藤とは連絡取ってたんじゃないの?」
俺は佐藤からサユさんが妊娠したことを訊いていただけに、その言葉に違和感を覚える。
「うん。でも健吾って私の前じゃ、そういうの見せないから……。って、私がそうさせているんだけどね」
寂しそうに言うサユさんに俺はやっとココに来た本当の理由が分かったような気がした。
「サユさんが気にしなくても大丈夫だよ。時間が解決してくれると思うし、あいつモテるから、すぐに彼女もできると思うし」
「そうだね。そういえば健吾って昔からモテてたわ」
俺の言葉に少し安心したのか、サユさんの頬が緩み、微かな笑みが漏れる。
「そうそう。だからサユさんはお腹の子と、旦那さんの事だけを想ってればいいよ」
安心させようと更に言葉をかけるとサユさんは俺の気持ちを察したのか「ありがとう」とお礼の言葉を口にした。
「じゃあ、帰るね。子供が生まれたら連絡するから、良かったら顔を見に来てね」
心なしかスッキリした顔つきで店のドアを開け出て行こうとするサユさんに俺は訊いてはいけないと思いながら、我慢することができず口にしてしまった。
「訊いていい?サユさんて佐藤の事、少しは好きだったことあった?」
俺の問いかけにサユさんはビクリと肩をビクつかせ、その動きを止めたが、少しの間を空けて
「好きだったよ……すごく」
そう俺に背を向けたまま小さく言うと、そのままゆっくりと店を出て行ってしまった。
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