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――…
―…
「珍しいな、お前から声が掛かるなんて……」
グラスを手にユキが意味ありげな笑みを浮かべ俺を見てきた。
「久しぶりにゆっくり飲みたくなってな。誘う相手がお前しかいないなんて、ちょっとだけどな」
悔し紛れにワザとため息交じりに溢し返す。
「急な誘いだから何かあったのかと思って仕事を切り上げてきてやったのに、その言いぐさかよ」
俺の言葉にユキは呆れた顔で一気に酒を飲み干した。
俺は心の中で感謝しながらも、それを言葉として出すことはできず。代わりに「コイツに同じのを」と酒のお代わりを注文した。
そんな俺にユキは微かに笑うと空いたグラスを置き、すぐに出てきた新しい酒を受け取った。
「何があったかは聞かないけど、あんまり思い詰めるなよ。昔から変に考え込み過ぎて周りが見えなくなることがあるからな」
ユキに言われた瞬間、心がフッと軽くなったのを感じた。
そして一人で納得してしまった――飲むだけなら他の誰かでも何でユキを誘ったのかを……
そして気づかされた。いつの間にかユキが自分の一番の理解者になっていたことを……
「何の事を言っているのか分からないけど、ありがとう」
また捻くれ者の俺はお礼の言葉を口にするも、やっぱり素直にはなり切ることができなかった。
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