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「ありがとうございます……」
大丈夫だと言っているのに申し訳なさそうにお礼の言葉を口にする優子ちゃん。
泣きはらした後のせいか、それともいつもの笑顔が見れないせいか、やけに弱々しく感じ胸が痛む。
「ちょっと待ってて。店を閉めてくるから……」
優子ちゃんに温かいお絞りを手渡し鍵を閉めに行く。
さすがに、もう美月は来ないとしても、こんな日に限ってユキやら佐藤がタイミング悪く来そうな気がする。
「重ね重ねすみません。本当に私って迷惑な女ですよね。だからいつも……」
鍵を閉め戻ってきた俺に裕子ちゃんは深々と頭を下げ、謝ったかと思うと途中で何かを思い出したかのように言葉に詰まり、涙ぐみだす。
せっかく止まったと思っていた涙が、また優子ちゃんの頬を濡らしてゆく。
いつもならどんな客相手にもポンポンと浮かんでくる台詞も、こんな時に限って何一つ浮かんでこない。
下手に声を掛けて、これ以上泣かれでもしたらと思うと下手に声も掛けにくい。
とはいえ、目の前で泣いている優子ちゃんを放置しておく事も出来ず
「これ実は知る人ぞ知るウチの店の裏メニュー。優子ちゃんには特別に」
そう言って優子ちゃんの目の前にカップを置く。
「あ、ココア。--美味しい」
俺からカップを受け取り飲むとやっと優子ちゃんの顔に笑顔が戻ってきた。
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