距離

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――… ―… 「いらっしゃいませ」 翌日。 俺は、いつもと変わらず接客に励んでいた。 「マスター、何か良いことでもあった?」 顔馴染みの客が突拍子もない言葉を投げ掛けてきた。 「いえ、特には……。そう見えますか?」 愛想笑いでやんわりと返しながら聞き返す。 「ありゃ、気のせいだったかな?何か見ていて、いつもと雰囲気が違って感じたんだけど……」 的が外れ、残念そうにくだを巻く客の言葉に内心ドキンとする。 でも別に良いことがあったわけじゃない。 ただユキに言われ、冷静に今までのことを…… もう一度、自分の気持ちを冷静に見返し…… ずっと胸に引っ掛かっていた棘(トゲ)がとれ、ずっとあったモヤモヤがスーッと消え去っていった気がした。 そのせいか今日は自分でも分かるくらい心が軽く感じられていたのだ。 .
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