距離

7/11
164人が本棚に入れています
本棚に追加
/35ページ
「気のせいですよ。ただ昨日、久々に友人と飲みに行ったぐらいですよ」 サラリと返すしながら俺は少し離れた客のグラスを下げ、新しい酒を出す。 「じゃあ、友人との酒が良い息抜きになったのかな?」 客の問いかけに俺は言葉なく、ただ伏し目がちに笑う。 ココにユキが居ないのだから認めてもいい気はしたが、やはりどこかこそばゆく頷くことさえできなかった。 そんな俺の耳に遠慮がちに店のドアが開く音が届く。 「いらっしゃいませ」 その音に敏感に反応した俺は反射的に笑顔で迎え入れる。 でも次の瞬間、俺の顔から笑みが消え、怖いくらい分かる自分自身の温度の変化を感じた。 でも、俺以上に相手の方が戸惑いの色を見せ、今にも店を飛び出していきそうだった。 「いらっしゃい。そんな所に立っていないで、どうぞ」 慌てて気持ちを切り替え、もう一度言うと彼女を…… 美月をいつもの席へと導いた。 .
/35ページ

最初のコメントを投稿しよう!