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多少はドキドキしているが、それは以前とは明らかに違うものだった。
なんて言ったらいいんだろう……
言葉では表し難いが前みたいに気持ちが前へ前へと駆り立てられるような感覚が消えていた。
さすがに他の客と同じ――とまではいかないが、気持ちが落ち着いている。
「どーぞ」
作ったカクテルを美月の前に置き勧める。
ほら、何でもない……
今までになく美月に”普通に”接している自分に安堵感を覚える。
そんな俺を美月は何か言いたげに見返したが、その口は開くどころか一瞬、言葉をのみ込むかのように固く噤む。
そして俺から目を落とすと目の前に置かれたカクテルに手を伸ばし、ゆっくりと飲みだした。
――何を言おうとした?
思わず訊き返しそうになったが、慌てて自分にブレーキを掛ける。
せっかくユキのおかげで自分の中の迷いが吹っ切れたような気がしたのに、また自ら飛び込みさ迷うような真似をするところだった、と思い直すことができた。
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