痛み

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「覚えは……」 ――ない、と言いたいが昨日の美月の事を思い出すと言いきれない。 俺の微かな動向を見逃さないといった顔の優弥の眉がピクリと動く。 「確かに昨日、美月は店に来たけど、それだけだ」 俺は優弥の視線から逃れるようにカウンター内を移動し、つまみを皿に盛ってゆく。 「やっぱり来たんだ、ココに……」 優弥の口ぶりからして何の確信もなく俺に会いに来たのだということが分かった。 「来たには来たけど居たのは10分くらいで、すぐ帰ったけどな」 テーブルにつまみを盛った皿を置くと、また優弥の隣に腰を下ろす。 どちらかというと俺の方が訊きたい――美月がおかしかった理由を…… でも今の様子からして俺が欲しい答えを優弥も持ってはいない。 せっかく晴れると思っていた胸のモヤモヤも晴れることなく、余計に濃くなってしまった。 「残念だったな、空振りで……。用も済んだようだし、帰るか?」 美月の事が分からないのなら、せっかく店を閉めたことだし家でゆっくり眠りたい。 背中にずっしりと圧し掛かるような脱力感と共に強い睡魔に襲われていた。 .
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