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私がすぐに行動に出ることができずにいると、急かすように窓がノックされた。
「行ってください。神崎に誤解されますよ?」
冗談めかしく言うと、男は私の断りもなく助手席の窓を下ろした。
「美月!」
同時に衛くんの声がダイレクトに耳に飛び込んできた。
「衛くん……」
その声に振り返ると心配そうな顔をした衛くんが車内を覗き込むように見ていた。
そしてドアがゆっくりと開けられ私は何の抵抗もなく車を降りる。
「ありがとうな。今度、奢るから」
今更だと思うけど、私を背に隠すようにして男にお礼を言う。
「別にいいよ。面白いもの見れたし」
男が私の方を目配せして意味ありげに笑う。
「行けよ。サキちゃんが待ってるんだろ?」
特に言い返すこともなく、でも悔しそうに舌打ちをして、帰れと促すように男の車を軽く叩いた。
「じゃあ、また」
笑いながら男は私に軽く手を上げ合図してから、ゆっくりと車を走らせた。
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