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そう……あれはまさに異物なのだ。
仕事を終え、彼の部屋まで車を走らせながら、私は思った。
私より先に彼に抱かれ、彼の愛を一心に受けていた女。
そんな女から産まれ落ちたものが、私と彼の間に入って良いはずがない。
私だって今まで、自分を磨き上げてきたのだ、いつだって彼を虜にし、彼を手に入れることは出来るはずだと思っている。
しかし、あいつが……あいつがいるかぎり、彼は私だけのものにはなってくれない。
どうにかして、透を排除しなければならないのだ。
「だって私は、あの男が残したものは全て処分したもの。ね、真奈美?」
パワーウィンドウを開き、景色の奥に広がる山に向けて、私は静かに語りかける。
――あの山に埋まっているはずの、私が産み落としてしまった〝異物〟に向かって。
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