ショー・ガール

2/6
前へ
/35ページ
次へ
いつものように優しい女を演じきり、彼の家を出る頃には、もう夜の九時を廻っていた。 車に乗ってエンジンをかけながら、煙草に火をつける。 車を走らせながら、私は今日の透の様子を思い出してほくそ笑んでいた。 透が絶対にあの人に告げ口しないことは分かっている。 私がずっと、透に罪の意識を植え付けてきたからだ。 ただでさえ、自分が母と妹を殺したと思っている透に、今更彼の幸せを邪魔するようなことが言えるはずはない。 私は彼から、少なからず好意を受けている自覚はある。 そんな彼の前で、透が私の悪口を言えるはずが無いし、彼がもし私と結婚したいと言えば、拒否などできないだろう。 しかし、彼と結婚してから透を排除すれば、私に疑いがかかりやすくなる。 ただでさえ、これから私は娘を亡くした悲しいシングルマザーを演じなければならないのに。 そんなことを考えている間に、車は自宅に到着する。 しかしそんな私を迎えたのは、郵便受けからはみ出すほどの分厚い封筒。 ――その中身は、私にとってあまりにも恐ろしいものだった。
/35ページ

最初のコメントを投稿しよう!

92人が本棚に入れています
本棚に追加