91人が本棚に入れています
本棚に追加
/35ページ
―◇父◇―
「では、上がらせて頂きます」
「おう、お疲れ!」
職場の皆に挨拶をし、定時に会社を出る。
透はもう学校を終え、家に帰っているだろう。
一人ぼっちの家で寂しく俺を待つ透の姿が脳裏をよぎり、俺の足は自然に早まった。
あの悪夢のような母の日から二ヶ月。
俺は残された透を支えて二人で生きていこうと頑張っている。
まだ自分を責めている透を見るのは辛いが、いつか透もきちんと前を向けるようになると思う。
それまで、俺が透を導いてやらなければならないのだ。
「森さん!」
その時急に誰かに肩を叩かれ、俺は振り向く。
そこにいたのは、同僚の矢部響子さんだった。
最初のコメントを投稿しよう!